作業管理自己診断チェックリストの試用― 全国推進センターで活用出来る作業管理活動レベル評価のための データベース構築に向けての一歩 ―
調査研究発表(抄)
作業管理自己診断チェックリストの試用
― 全国推進センターで活用出来る作業管理活動レベル評価のための データベース構築に向けての一歩 ―
主任研究者
酒井 淳(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
神代 雅晴(福岡産業保健推進センター相談員)
東  敏昭(福岡産業保健推進センター相談員)
北本 良也(福岡産業保健推進センター相談員)
長谷川徹也(近畿大学九州工学部教授)
甲斐 章人(甲斐経営技術研究所所長)
田中 雅人(トヨタ自動車九州(株)産業医)
1.はじめに

 製造業における生産システムを串団子に喩えるならば、一個一個の団子に相当する作業工程あるいは職場を単位としての改善を図るためのチェックリストは存在している。例えば、ILO編集による「人間工学チェックポイント」は国内外において有名である。一方、幾つかの団子をまとめて横断的に検討するチェックリスト、さらには、それらを一本の串に通して全体から問題点を眺めることの出来るチェックリストは存在していない。加えて、労働衛生活動における作業管理の視点からのみでなく、経営管理活動における生産管理の視点をも踏まえたチェックリストは皆無である。そこで、福岡産業保健推進センターは平成11年度から13年度の3年間にわたって生産管理と作業管理に関連する項目を融合して、産業医のみならず、企業の経営者、現場管理職者等が活用出来る「作業管理自己診断チェックリスト」を開発した。本報告は、この「作業管理自己診断チェックリスト」を全国の産業保健推進センターで活用できるようにすることを目的として、本チェックリスト使用結果に基づく各企業の管理状況の収集及び管理水準の診断に寄与するデーターベースの構築を試みた。
2.方法

 調査は前年度に開発した「作業管理自己診断チェックリスト」の改訂版(2項目追加、計83項目)を用い、福岡県を中心として、大分、長崎県などに立地する快適職場推進計画認定事業所、ISO取得事業所、JIS認定工場などに配布した。合わせて、チェックリストのユーザビリティ(使用感)に関するアンケート用紙も配布した。配布は郵送及び訪問の二通りとした。その結果、85事業所から回答を得ることができたが、10事業所の回答には「作業管理自己診断チェックリスト」のチェック項目に無記入が多かった。したがって、75事業所からの結果を有効回答とした。ユーザビリティに関しては85事業所からの有効回答を得た。85事業所のうち、JIS認定工場が18事業所、ISO9000シリーズを取得していたのが44事業所、ISO14000シリーズを取得していたのが31事業所であった。チェックリストの解析対象は、「一般機械製造業」が26事業所を占め、次いで「電気機械器具製造業」(10事業所)の順であった。従業員数は18人から1600人の範囲にあり、1000人以上のところが5事業所あった。「50人以上、100人未満」の事業所は全体の28.0%を占めていた。
3.結果

 1) 「作業管理自己診断チェックリスト」のユーザビリティ
 (1)チェックリストの記入に要した時間を観察すると、60分から90分未満が38.8%で最も多く、平均所要時間値は80.3分であった。最頻所要時間値は60分で全体の32.9%を占めていた。
 (2)「基礎知識」、「評価項目」の説明に関して
 「基礎知識」の内容のわかりやすさに関しては、90.5%がわかりやすい及びだいたいわかったと回答していた。同様にして、各「評価項目」に付記した説明のわかりやすさに関して、92.7%がわかりやすい及びだいたいわかったと回答していた。
 (3)5段階評価法とその表現法
  5段階評価と評価の程度を表すそれぞれの表現語彙に関する反応を観察すると、89.4%がわかりやすい及びだいたいわかったと回答していた。一方、各チェック項目に対する5段階評価の難易度に関しては、51.8%が評価しやすいと回答し、24.7%が少し難しいと回答した。
 (4)チェック項目数
  「作業管理自己診断チェックリスト」の総項目数は83項目である。この項目数が適当及びほぼ適当であると回答したのは75.3%であった。一方、14.1%が83項目では多いと回答した。
 (5)「作業管理自己診断チェックリスト」の使いやすさ
  「作業管理自己診断チェックリスト」の使いやすさに関しては、77.6%が使いやすいと回答し、18.8%があまり使いやすくない、1.2%が使いにくいと回答した。
 2) 「作業管理自己診断チェックリスト」の使用結果
 (1)54.1%の事業所が日常的に新規技術や経営戦略に関する情報収集を行っていた。一方、57.6%の事業所が日常的に労働安全衛生に関する情報収集を行っていた。新規技術や経営戦略に関する情報収集を日常的に行っていると回答した事業所の76.1%が労働安全衛生に関する情報収集も日常的に行っていると回答していた。新規技術や経営戦略に関する情報収集を時々行うと回答した事業所においても37.9%が労働安全衛生に関する情報収集を日常的に行い、58.6%が時々行うと回答していた。以上のように、対象とした事業所では経営や労働安全衛生に関する情報収集を日常的に行っているところが多く、作業管理に関しても意識の高い事業所が多いと推測される。

 (2)有効回答とした75事業所の「作業管理自己診断チェックリスト」結果を用いて、業種ごとの管理水準の平均値を算出した。75事業所の管理水準の平均値は3.9であった。業種別では「窯業土石製品製造業」が4.1で最も高く、次いで「電気機械器具製造業」(4.0)、「輸送用機械等製造業」(4.0)、「食料品製造業」(4.0)の順であった。反して、「印刷・製本業」は3.2で最も低かった。生産管理に関する労働安全衛生に関する管理水準との相関係数は0.815で、生産管理の水準が高い事業所では労働安全衛生に関する管理水準も高かった。