製造業における体系的作業管理マニュアルの作成−職場に役立つ「作業管理チェックリスト」の開発− |
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調査研究発表(抄) |
製造業における体系的作業管理マニュアルの作成−職場に役立つ「作業管理チェックリスト」の開発− |
主任研究者 |
酒井 淳(福岡産業保健推進センター) |
共同研究者 |
神代 雅晴 相談員(産業医科大学産業生態科学研究所)
東 敏昭 相談員(産業医科大学産業生態科学研究所)
北本 良也 相談員(福岡産業保健推進センター)
長谷川徹也(近畿大学九州工学部)
田中 雅人(トヨタ自動車九州(株))
甲斐 章人(甲斐経営技術研究所)
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1.作業管理マニュアル作成の意義 |
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労働衛生活動の一つとして位置付けられている作業管理の体系的な管理法、活動のための手法は作業環境管理、健康管理と比べて明らかに遅れを執っている。今日、作業管理の重要性が認知され、OSHAの「職場における人間工学ガイドライン」、あるいはILOの「人間工学チェックリスト」等が重宝がられて来たが、実践的作業管理活動の指針として用いるには充分とは言い難い。そこで福岡産業保健推進センターは、現場で職場改善を行なう時に役立つ体系的作業管理マニュアルの作成を試みた。
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2.作業管理自己診断チェックリストの特徴 |
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マニュアルは、現場で簡単に使え、産業医・産業保健師・労働衛生管理者らに経営理念、生産活動を充分に理解させ、反して、現場の監督職・管理職者さらに中小企業規模の経営者らには労働衛生活動を充分に理解させることを意図した。そのため、チェックリストには以下に示す特徴を持たせた。
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(1)異なる領域の人が用いることを前提とし、作業管理(労働衛生)と生産管理(経営管理)の両方の専門的知識・経験を持っていなくても理解できる。
(2)記入時間を多く必要としない。
(3)記入が煩雑にならない。
(4)チェック項目を合理的な順序で並べ、自己診断が流れに沿って円滑に進められる。
(5)チェックすることにより現状の状態把握が簡単に出来、問題と改善の方向性を示唆できる。
(6)評価項目を理解して評価シートに記入することで自社の作業管理水準が把握できる。
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本チェックリストを使用することで、労働負荷の軽減策が検討でき生産性の向上に寄与すると考えられる。
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3.作業管理自己診断チェックリストの構成 |
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作業管理自己診断チェックリストは表1に示すように8つの領域から構成されている。
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表1「作業管理自己診断チェックリスト」の構成
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章立て |
項目数 |
(そのうちの生産管理関の連項目数) |
1章 工程管理 |
17項目 |
(10項目) |
2章 作業研究 |
12項目 |
(8項目) |
3章 品質管理 |
14項目 |
(14項目) |
4章 工場レイアウト |
14項目 |
(9項目) |
5章 運搬管理 |
9項目 |
(8項目) |
6章 設備保全管理 |
13項目 |
(10項目) |
7章 労働基準関係法令の遵守 |
2項目 |
(0項目) |
8章 総合評価 |
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計 |
81項目 |
(59項目) |
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(※1〜7章は(1)基礎知識、(2)評価項目、(3)評価・チェック項目 でそれぞれ構成)
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「作業管理自己診断チェックリスト」で用いたチェック内容は定性的であるため、チェックする人の知識レベルにより回答結果が左右される恐れがある。そこで、各章には「評価・チェックシート」の記入の前に「(1)基礎知識」、「(2)評価項目」の2節を設け、各章の内容に関する簡単な説明を読むことによりチェックリストの理解を助けるように工夫した。
各章のチェック項目に対してAからEまでの5段階評価で記入させる方式をとり、すべての項目に対して記入を終えた後、各章ごとのチェック結果を「劣っている」から「優れている」までの5段階で点数化し、8章の「総合評価」で各章の平均点を求めて記入するようにした。総合評価を一覧することにより自社の作業管理業務における特徴がわかるように工夫した。このチェックリストを定期的に使用することで、自社の作業管理水準の動向が把握できるようになると考えられる。
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4. チェックリストの試行結果と今後の展望 |
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「作業管理自己診断チェックリスト」を開発し、16事業所に対して試行した。図1〜図2に金属製品製造業を対象とした2事業所の調査結果を示す。図1はチェックリストの章別にみた平均値、図2は労働衛生に関する項目のみの平均値である。A社は従業員数150名、B社は産業医が常駐する従業員数1300名の事業所である。
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図1 2社の平均値の比較(全項目)
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図2 2社の平均値の比較(労働衛生項目)
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上図の如く図示することにより各事業所の特徴や問題点を明らかにすることができた。対象企業からは、今後もチェックリストを使用したいとの反応も寄せられた。一般的には中小規模の事業所における経営者や管理者は作業管理を含む労働衛生について細かい知識をもつことは困難であり、またそれは必須のものではないと考えられている。改善を推し進めるための仕組みは労働衛生活動を理解し、実践することである。「作業管理自己診断チェックリスト」は労働衛生活動の一端としての職場改善の一助になるものと考えられる。
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