労働者のメンタルヘルス対策に関するネットワーク作りの試みと課題 |
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調査研究課題名 |
労働者のメンタルヘルス対策に関するネットワーク作りの試みと課題 |
主任研究者 |
酒井 淳(福岡産業保健推進センター所長) |
共同研究者 |
中村 純(産業医科大学精神医学)
永田 頌史(産業医科大学精神保健学)
西島 英利(小倉蒲生病院)
兵働 邦彦(兵働内科医院)
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研究協力者 |
末吉 信之(若松区医師会)
三島 徳雄(産業医科大学精神保健学)
副田 秀二(産業医科大学精神医学)
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1.はじめに |
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現代は産業経済の大きな変革期にあたり、終身雇用制の崩壊、組織改革、成果主義賃金制の導入、技術革新(IT化)などにより、労働環境は大きく変化し、労働の場において「強い不安、悩みやストレスを感じている」労働者の割合は増えつつあり、1997年度で62.8% に達している。一方、「生活や経済上の問題による」自殺者の数も、1998年からは6000人を超えている。
産業現場でのメンタルヘルス対策では、産業医をはじめとする事業所内の産業保健スタッフと事業所外の地域産業保健センター、産業保健推進センター、医師会、労災病院、大学病院精神科・心療内科などの医療スタッフとの連携が必要である。しかし、現状ではその連携は必ずしも十分とはいえない。メンタルヘルスに関しては、個人情報の保護を含めた様々な問題を孕んでいる。また、この問題に対する労働者や各スタッフ間との認識に相違があることが課題に含まれる。また、ストレスによる職場不適応は、対人関係や仕事内容などの原因で発症している者、家庭内に問題を有する者など、様々な要因によると推定される。これらの労働者がどのような経路で産業医あるいは事業所内外の資源を利用しているのか、また、資源を有効に活用できているのかなどについて現状を把握する必要がある。その結果からどのような連携が、職場不適応を生じた労働者の再適応あるいはその予防を可能とするのかを検討することが重要である。
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2.調査方法 |
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1)嘱託産業医に対する調査
平成13年2月、若松地区の事業所(50人以上)を担当する嘱託産業医に無記名による自己記入式アンケートを郵送により実施した。回収率は70.0%(16/23名)であった。
主な調査内容は、(1)メンタルヘルス不全者への対応、(2)メンタルヘルスの教育研修依頼があった場合の対応、(3)どのようなネットワークがあれば利用しやすいかなどについてである。
2)外来通院中のメンタルヘルスに問題のある労働者に対する調査
平成13年2月1日から2月28日までに産業医科大学病院神経・精神科、同院心療内科、新日鐵記念病院心療内科を受診した83名(男55、女28)の労働者に対して無記名の自己記入式アンケートを実施した。回収率は100%であった。
調査内容は、(1)職業性ストレス簡易調査表、(2)GHQ-12、(3)家庭問題、(4)産業保健スタッフの認知度、(5)どの時点で事業所(会社)に相談または通知するかなどである。GHQ-12項目版は、精神健康度の測定指標として用いた。
3)事業所に勤務している労働者に対する調査
労働基準協会の協力により若松区の3事業所に勤務している労働者400人に「職業性ストレスとメンタルヘルス対策」についての無記名による自己記入式アンケートおよびGHQ-12項目版、職業性ストレス簡易調査票を実施した。回収率は79.8%(319/400)であった。
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3.調査結果および考察 |
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1)調査結果のポイントについて
(1) 嘱託産業医に対する調査
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- 嘱託産業医のところまでメンタルヘルスに関する相談が届いていない場合が多い。
- 約9割の嘱託産業医が、事業所外資源とのネットワークがあれば事例相談・紹介、教育・研修依頼、講習会などに利用したいと考えている。
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(2) 外来通院中の労働者に対する調査
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- 外来通院中の労働者の2/3は、事業場に健康管理室がないと回答した。
- 外来通院中の労働者の4割弱が、通院治療中であることを事業所に知らせておらず、その理由として「会社に知られたくない」、「仕事に支障がない」をあげた者が多かった。
- 外来通院中の労働者が、治療を受けていることを事業所の上司や担当者に知らせる時期は、「仕事に支障がでてきた時」、「1週間以上休む必要がでてきた時」である。
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(3) 事業所に勤務している労働者に対する調査
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- 事業所に勤務している労働者の4割弱が、過去5年間に「過労や仕事上の悩みによる体調不良」を経験し、2割弱が実際に「会社を休んだことがある」と回答していた。
- 体調不良時の対応として、「自分で何とか解決した」者(69%)、「上司に相談した」者(19%)、「内科系の医療機関を受診した」者(21%)が多く、「精神科・心療内科系の医療機関の受診した」者(3%)は少なかった。
- 「現在、健康について相談したいと思っている」者が17%おり、「パンフレットなどがあれば利用したい」者は76%と多かった。
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(4) ストレス調査
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- 外来通院中の労働者は、事業所に勤務している労働者に比較して、精神不健康度や精神不健康者の割合が高かった。また、前者は職業性のストレス指標が高く、家庭に対する満足感も低かった。
- 事業場に勤務している労働者でも、精神不健康度の高い者、「仕事の負担」が高く、「対人関係で問題がある」者が2〜3割みられた。
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2)メンタルヘルス対策のためのネットワーク作りの過程と調査で明らかになった問題点
(1) 嘱託産業医の多くは、メンタルヘルス(M.H.)の専門家ではない。
(2) 中小事業所では組織的なM.H.対策を行っているところは少なく、M.H.対策への関心が高くない事業所が多い。
(3) 医療機関に通院していることを事業所に知らせていない労働者が4割近くいる。
(4) 規模の小さい事業所には健康管理室がなく、事業所内に相談機能を持たせることは難しい。
(5) 事業場に勤務している労働者の4割弱が、過去5年間に過労や悩みにより体調不良を経験していた。
(6) 職場のストレスによる体調不良も「自分で何とか解決したい」と考えている労働者が55%いたが、一方で「健康について相談したい」労働者も17%いた。
(7) 産業保健スタッフから、事例が生じた場合にどこに相談したよいかわからない、紹介しても話を聞いてもらえないなどの意見が出されることが多い。
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3)メンタルヘルス対策のためのネットワーク作りの今後の課題
(1) ネットワークの維持と発展
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- 各組織の担当者を決めて組織図、連絡網(電話、FAX、Eメールなど)を作り、配布する。
- 各組織が提供できるサービス(相談、診療、研修、講演など)を明記して配布する。
- 定期的な会合、連絡会議を作り、相互交流を活発にする。
- 各組織が相互にメリットとなるような活動を行う。
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(2) 事業所におけるメンタルヘルス対策の支援
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- メンタルヘルス対策のための組織づくり、予防的対策の支援を行う。
- 事例相談、復職支援を行う。
- 研修、講演、ストレス調査と結果のフィードバックなどの支援をする。
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(3) 活動を維持するための経済的支援の検討
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- 地域産業保健センター
- 産業保健推進センター
- その他
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参考文献
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1)労働省:平成9年労働省健康状況調査結果速報 1998年10月発表
2)藤代一也:産業保健活動における産業精神保健.上里一郎,末松弘行,田畑 治,西村良二,丹羽真一監修:メンタルヘルス事典,同朋社,東京,pp132-137, 2000
3)松崎一葉:職域のメンタルヘルスケアシステムの構築に関する研究−地域産業保健センターの機能活用の試み−.産業医学振興財団.平成11年度産業医学に関する調査研究助成報告集,pp129-149,2000
4)下光輝一他:職業性ストレス簡易調査票使用マニュアル.労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書(班長:加藤正明)pp17-24,2000
5)島 悟 他:勤労者における精神障害に関する多施設共同研究. 精神医学 39:117-1112, 1997
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