製造業における体系的作業管理マニュアルの作成 |
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調査研究課題名 |
製造業における体系的作業管理マニュアルの作成 |
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東 敏昭(産業医科大学産業生態科学研究所作業病態学研究室)
田中 雅人(トヨタ自動車九州(株)総括産業医)
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はじめに |
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日本の労働災害による死傷者数は長期的には減少しているものの、今なお年間60万人近い労働者が被災し、1,800人を超える人命が失われている。
労働災害全体の約8割は従業員数1-99人規模の中小事業場で発生し、これらの事業場における労働災害の発生率は大規模事業場に比べて高くなっているなど、大規模事業場と中小事業場の安全衛生水準には大きな格差がみられ、中小規模事業場における安全衛生水準の向上を図ることが必要になっている。
一方、広く国際的な動きに目を転じると、社会活動の基盤となるルールに国際的調和を図るいわゆる「グローパルスタンダード(GS)」の導入が進んでいる。生産・貿易などの経済活動、環境保全対策に続き、産業保健の分野でも現在議論が活発である。安全衛生水準向上の骨子は、「ポリシーを明示し、目標を示し、これを実行しうる」人材の育成、「教育」にあり、産業保健・安全衛生の分野も例外ではない。産業保健分野のスタンダードの変化とは、いわゆる「規格適性」の時代から、「システム適性」の時代への移行であろう。国際的な経済競争のルールの一旦としての捉える向きもあるが、本来、「最も適切に働く人の安全と健康の確保を目指すための国境を超えた規範化」であると考える。また、産業保健活動の適切な展開が、必ずしも経済的合理性と矛盾しない至適化を可能とするという認識が定着しつつある。
中小企業における、安全衛生水準の向上においては、経営者の理解と決断が要締となる。経営資源の限定されることが多い中小規模事業上において、経営者に安全衛生水準も向上を促すためには、単に危険因子への対策法を示すだけでなく、生産性の向上など経営自体に対する有用性をもたらすことを示す必要がある。また、理想的な改善例を示すことにとらわれず、企業の実情に合致した改善のプロセスを提示することがより有効と考えられる。
特に中小規模事業場では、経営者の理解と具体的行動が極めて重要である。一方、中小規模事業場の経営者のみならず、経営者は作業管理を含む安全衛生について細かい知織をもつことは困難であり、またそれは必須のものではない。理解し、実践すべきは改善を推しし進めるための仕組みについてであり、また管理水準の評価手法である。本年度の調査研究は、以上の主旨に沿って作業の実践的改善を行うために用いる管理水準の評価のための作業管理チェックリストを作成することを目的とした。
職場での作業管理を含む安全衛生管理の推進は、活動努力の程度に沿った成果が現れると考えられる。具体的な活動を通じての、直接、間接の効果は以下のようなものと考えられる。
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(1)働く人を大切にするという雰囲気が職場に充満し、笑顔で、楽しく仕事ができるようになる。その結果、労働者個人が持っている能力が十分発揮される。
(2)働く人と企業との一体感がうまれ経営トップの意向が管理・監督者を通して作業現場に伝わりやすくなり、作業指示が徹底して仕事の能率が上がる。
(3)災害防止、身体負荷低減の努力が、健康影響の防止のみならず、品質と生産性に好影響を与えて業績が向上し、良質の労働力が定着するようになる。
(4)災害減少により、労災保険のメリット制により、保険料負担が軽減される。
(5)安全配慮義務不履行などで発生する損害賠償による費用負担を削減することができる。
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この中で、特に(1)-(3)の効果が、企業経営上で大きいと考えられる。
本年度の成果物
本年度の成果物は作業管理(安全衛生)水準チェックリストと、1999年に米国労働安全衛生省(OSHA)から出された、職場における人間工学ガイドラインの内容の摘要とする。
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(1)作業管理チェックリスト
本年度作成した作業管理チェックリストは、管理水準の評価のための段階確認を行う形のものである。経営水準の評価のためのチェックリストと一対をなすものであり、現在のバージョンはプロトタイプである。最終的には整合性のあるものとする。
(2)人間工学ガイドライン
米国労働安全蒲生省(OSHA)からFederal Registerとして提示された「職場における人間工学ガイドライン」は、目的、意義、医学的・工学的の背景を含む大部のものであるため、チェック項目として用いることのできる部分の内容摘要とした。
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参考文献
1)国際労働事務局(ILO)編集、国際人間工学会協力:小木和孝訳、「人間工学チェックポイント」、(財)労働科学研究所、東京、1998
2)中央労働災害防止協会、「職場のリスクアセスメントの実験−安全衛生もニューアプローチ」、中央労働災害防止協会、東京、1999
3)青山英康、小木和孝、天明佳臣、中桐伸五、「職場改善のための安全衛生実践マニュアル」、(財)労働科学研究所、東京、1999
4)中央労働災害防止協会、「安全衛生委員会の進め方、活かし方」、中央労働災害防止協会、東京、1994
5)労働省安全衛生部 監修、「経営者のための安全衛生のてびき」、中央労働災害防止協会、東京、1999
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