近年「健康づくり」ということが、地域においても、事業場においても、さかんに取り上げられてきた。
1988年の労働安全衛生法の改正を機として企業における健康づくりは「THP」という形で取り入れられてきた。その取り組みも事業場毎に様々であり、また、その効果も一定していないようである。特に中小規模の事業場においては、その取り組みが遅れている。労働省がTHPの推進をスタートしたときもその効果は学問的に十分期待できるものであったはずで、その後追いの形になるのであるが、今回健康づくり(THP)の評価を試みた。THPが十分その機能を発揮すれば、成人病のリスクファクターの軽減、運動能力の向上、ストレスのコントロール等々、健康事象全面に関係することは首肯できる。効果が多面にわたるだけに、かえって評価が困雑となっている側面もある。例えば、健康状態が向上したので、従業員の欠勤率が下がったとする。しかし、欠勤率を下げるための試みは健康づくり・THPのみでなく、企業の労務管理のアクティビティとして大きく取り上げられているはずである。どちらの効果であったのかを判定するのは容易でない。すなわち、できるだけ客観的評価ができる形のものに限定しなければ正しい評価にならない。
もう一つの点は、THPの基本は「ライフスタイルの改善」にあると考えられる。この事は、学校教育における教育の成果、禁煙教育における成果、そして、アルコール依存の人達の減酒教育と同じように一定のサービスを提供したからといって、一定の成果が得られるものでない。サービス(教育)を与えるスタッフの力量、提供の方法、また、それを受ける側の資質・動機の問題が関係するということである。健康づくり活動の成果が現れたり、現れなかったりするということがある。
経済学的評価の大きな役割は、企業あるいは事業場において、健康づくりを考慮した産業保健活動を導入するかどうかの決定を行う際の資料となるというところにある。
そこで我々は、
- 現在は毎年の定期健診を行っている
- しかし、特に「健康づくり」運動に取り組んでいない。
という状況のもとで、一つの産業保健活動プログラムを提案して、それを評価するという形をとった。
表1.に示すように、THPの一つのオプションであるが大きく変わる点は教室の形をとっていることである。この点は多くの産業保健活動が全労働者を対象に計画されている現状とそぐわない点があるかも知れない。