女性労働者の月経周期と閉経に伴う諸症状が労働のあり方と健康に及ぼす影響−女性労働者の快適職場環境づくりのための産業保健活動支援チェックリストの作成−
調査研究課題名
女性労働者の月経周期と閉経に伴う諸症状が労働のあり方と健康に及ぼす影響
−女性労働者の快適職場環境づくりのための産業保健活動支援チェックリストの作成−
主任研究者
織田進  (福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
神代 雅晴 (相談員、産業医科大学)
藤代 一也 (相談員、九州電力 産業医)
柴戸 美奈 (相談員、 九州産業衛生協会)
日野 義之 (特別相談員、ひの労働衛生コンサルタント)
加茂 洋志 (九州労災病院 副院長)
梁井 俊郎 (特別相談員、九州労災病院)
豊永 敏宏 (特別相談員、九州労災病院)
朴 美卿 (日本学術振興会外国人特別研究員 産業医科大学)
山口 淑恵 (勤労者予防医療センター 保健師)
中西 奈々子 (三越福岡店 保健師)
住徳 松子 (アサヒビール博多工場 保健師)
笠松 慶子 (金沢工業大学 講師)
1.はじめに

女性の労働力は、少子高齢化の進展に伴い、労働力確保という面においてますます重要なものとなってきている。女性には女性特有の月経周期という生体リズムが存在するため、少しのミスも許されないような重大な仕事をしている女性に対して、事前に安全対策や配慮がなされていない場合には、月経前症候群や月経困難症等身体的・精神的な苦痛が重大な事故の誘因となりかねない。従って、産業現場において、月経周期や閉経に関する諸症状およびその仕事や日常生活に対する影響をチェックすることは、女性の健康維持だけでなく安全衛生管理上重要である。
本研究は女性労働者の月経周期と閉経に伴う諸症状、生活環境、労働条件及び労働環境などに関する実態を把握し、その結果を基に、女性労働者の快適職場環境づくりのための産業保健活動支援チェックリストの開発することを目的とした。
2.対象及び方法

1)調査対象:福岡県内で働いている女性労働者を対象に、無記名によるアンケート調査を行った。アンケートは各事業場の産業保健スタッフの協力のもとに配布した。回収は封をした後、職場を通じてあるいは福岡産業保健推進センターへ直接返送してもらった。配布先事業場)、配布数は1,000部で回答数は792部(回収率:79.2%)であった。
2)調査内容:生活環境(年齢、婚姻状況、同居者、子供の養育状況、要介護者有無等)、職場環境(雇用形態、職種、職位、勤務形態、勤務年数、実働時間、職場施設、作業内容、作業姿勢、職場制度等)、月経と閉経(月経周期、周期の規則性、月経に伴う身体的・心理的変化及びそれによる仕事への影響、月経痛の対処、月経と閉経に伴う諸症状等)
3)集計・解析方法:統計処理にはSPSS 11.5J (SPSS Japan Inc.)を用いた。アンケートの各項目について単純集計を行い、月経と閉経に伴う諸症状とそれに影響を与える諸因子との関連性を調べるため両者間をクロス集計し、カイ2乗検定で評価した。順位変数については一要因の3つ以上のグループ差を検定する時はKruskal WallisのH検定を、2つのグループ差を検定する時はMann-WhitneyのU検定を用いた。MDQについては痛み、集中力、行動変化、自律神経反応、水分貯留、否定的感情、気分の高揚、コントロールの8項目に分け合計得点を、月経周期(月経前、月経中、月経後)を要因とした1元配置分散分析で検定を行った。また、SMI総得点、血管運動神経系症状、精神神経系症状、運動神経系症状の各合計得点について作業内容(単調さ・緊張度:4水準)の影響をみるために1元配置分散分析を、作業姿勢(立ち作業・座り作業:2水準)、職場での空調施設の適切な温度設定有無の影響をみるためにはt検定を行った。なお、統計的有意差の判定については、危険率5%以下の場合を有意であると判定した。
4) 調査期間:平成18年10月〜11月
3.結果および考察

1)職場における設備状況:男女の区別があるトイレは96.2%、休憩室は80.5%、と多くの職場に設置されていたが、休憩室に男女の区別ありは22.1%、職場内もしくは会社の契約している託児所のありは4.9%、母乳授乳室または母乳保管用備品ありは13.7%とそれらの整備状況は不十分であった。
2)職場制度に関する事項:介護休業、育児休業は78.5%が取得しやすいと回答したが、「1日2回各30分の育児時間は取得しやすい」は43.0%、「妊産婦の通院時間は取得しやすい」は53.2%であり、「生理休暇は取得しやすい」は20.1%、「女性特有の疾患や症状に関する教育プログラム」は11.2%にしか実施されていなかった。「会社や労働組合に女性労働環境設備で支援してほしいこと」については、設備(トイレに生理用品を置く棚の設置、搾乳室、横になれる休憩室等)が50.3%、妊娠育児中の労働時間、休憩、休暇(労働時間短縮が保証されている、積極的に休暇がとれる等)が42.1%、金銭的援助(出産祝い金、各種手当に関するもの等)が25.5%、福利厚生(ベビーシッターの助成、提携保育園がある等)が46.3%あった。
3)月経周期に伴う諸症状の心身及び仕事への影響:@月経に関係して「仕事でうっかりミスや思いがけないミスを起こす」が29.8%(月経前:8.7%、月経中:9.4%、月経前・月経中両方:11.7%)にあった。年齢と月経痛との関係では、20〜24歳では「月経痛が毎月ある」人が有意に多く、35〜39歳の人では「月経痛が時々ある」人が有意に多かった。月経痛の程度においては20〜24歳では「毎回日常生活に支障が出る」人が有意に多くあり、40〜45歳の人では「日常生活に支障のない程度」の人が有意に
多かった。A立ち作業をする人は座り作業をする人に比べて月経に伴う身体的・心理的変化が「仕事に影響する」と答えた人が有意に多く、 とくに、“月経中”に「仕事をしたくないことがある」、「いつもうまくできていることができなくなる」と答えた人が多い傾向を示し、月経痛対処として痛み止め服用が有意に多かった。B単調でない作業・過度の緊張を要する作業内容を持つ人では月経に伴う身体的・心理的変化が「日常生活および仕事に影響する」人が多い傾向を示し、 “両方(月経前、月経中)”の時期に「いつもより仕事に対して神経を集中しなければならない」と答えた人が有意に多かった。 C単調な作業・過度の緊張を要しない作業をする人は“月経中”に仕事でうっかりミスや思いがけないミスを起した人が多い傾向を示した。 
4)閉経に伴う諸症状と作業姿勢の関係:“座り作業”の人は、「怒りやすくすぐイライラする」、「くよくよしたり憂うつになることがある」について、“立ち作業”の人より症状の訴えが有意に強かった。「腰や手足が冷えやすい」および「肩こり・腰痛・手足の痛みがある」についても、“座り作業”の人が“立ち作業”の人より症状の訴えが強い傾向を示した。交代制勤務の人は定時間勤務のみの人より汗をかきやすい傾向を示した。
4.まとめ

 月経に伴う諸症状が仕事に与える影響は、年齢、作業姿勢、作業内容により異なることおよび事業場間で女性労働者に対する制度整備状況が様々であり、また、職場環境および制度に対する改善ニーズが明らかになった。これらの結果をもとに、女性労働者の快適職場環境づくりのための産業保健活動支援チェックリスト(案)を作成した。